平成27年度第6回のアソシア志友館「おもしろ学校」が11月18日(水)19時 00分~20時30分に「ウインクあいち」を会場に開催されました。
第6回の講師は江南市立布袋小学校の三浦光俊先生。
テーマは「文学の楽しみ方~誰でも文学が読めるようになるための方法~」でした。
今日取り上げる作品は「お手紙」です。
アーノルド=ローベルというアメリカ人の作品です。
原本はこれです。(原作本を提示)これを三木卓さんが訳しています。小学校2年生の教科書に載っている作品です。
では、私が読みます。教科書版と絵本とどこが違うか比べながら聴いてください。
登場人物は誰ですか。
がまくん、かえるくん、かたつむりくんの3人ですね。
では、がまくんのせりふを○ かえるくんのせりふを△で 番号を囲んでください。
確認します。
●がまくん 4,6,9,13,15,33,35,40,42,48,50,53,57,62,64,67,69
●かえるくん 3,7,11,18,22,24,30,32,37,39,45,47,55,59,61,66
ですね。
同じ机の3人で役割読みをします。
がまくん役、かえるくん役、その他の3役になって、読んでみてください。
握手をして簡単な自己紹介をしてから始めてください。
和気あいあいという雰囲気で音読が行われました。
では、次は役を変えてもう一度読んでください。
がまくん役の時とかえるくん役の時で何か違いがありませんでしたか?
そのちがいをグループで分かち合ってください。
今の話し合いの内容を発表してください。
●がまくんの時はひねくれて、ふんっていう感じで、かえるくんは気の長い子で、待ってて、喜ばせたいっていう感じで。
●かえるくんは大人、がまくんは子どもですねている。そのすねているのが変わった。
がまくんのせりふの読み方を考えてみたいと思います。
まずは48の「ばからしいこと、言うなよ。」です。
どんなふうに読みますか? 読んでみてください。
5人が次々と読む。
どんな気持ちで読みましたか?
●ふてくされて
●捨て台詞っていう感じ
●うそばっかいうなよ
●しつこいので切り捨てたい
次に62の「きみが。」を読んでみてください。
どんなふうに読みますか。読んでみてください。
5人が読む。
どんな気持ちで読みましたか?
●負の連鎖がこの一言で切り替わるように
●おどろいて、びっくり
●そんなことしてくれたんだ。うれしい。そうだったんだ
ではもう一つ考えてみましょう。67の「ああ。」です。読んでみてください。
どんなふうに読みますか。読んでみてください。
5人が読む。
どんな気持ちで?
●言葉にならない、感嘆詞
●感動して
●とまどいから驚き、そして感動へ
いろいろな読み方ができるんですね。
では、今の読みも参考にしながら、がまくんの気持ちの変化を考えてみます。
がまくんの気持ちが一番大きく変わったのは何番ですか?
プリントに番号を書いてください。
何番にしましたか。書けた人はそう考えた理由も書いてください。
文章を根拠に説明できるといいですね。
・62,66,67,69,61と62の間,53の6つの意見が出ました。
自分の考える番号に手を挙げてください。
・62-26人
・66-3人
・67-19人
・69-7人
・61と62の間-5人
・53-3人
人数の少ない方から理由を聞いていきます。
53「かえるくん、どうして、きみ、ずっと まどの外を見ているの。」
勇気を出して初めて質問した
かえるくんがかわいいから勇気を出した
ここまで自分に目が向いていたが、ここで初めて外に目を向けた
66「ぼくは、こう書いたんだ。『親愛なる がまがえるくん。ぼくは、きみが ぼくの親友であることを、うれしく思っています。きみの親友、かえる。』」
手紙を聞いて変わった
かえるくんの言葉を聞く中で、がまくんの心に多くの感情が沸き立つ瞬間だからかえるくんの優しさに気づいた
61と62の間
61「だって、ぼくが、きみにお手紙出したんだもの。」
62「きみが。」話を聞いた瞬間に変わって、「きみが」という言葉が出た
暗い気持ちから、「えっ」と驚きと喜びの感情に変わった
それがかえるくんが、お手紙出したんだよと言ってくれて、暗い気持ちから変わった
69「とても いいお手紙だ。」はじめて素直になれて、感謝の気持ちをどうやって伝えようかと考えて選んだ言葉だから
がまくんの気持ちが確定した言葉
悲しい気持ちから幸せな気持ちに変わり、次の行動が出る
今まで手紙を待っていたんだけど身近に大切な友だちがいたということがここで分かった。
ああの2文字。ここが一番時間の流れが長い。手紙の内容をじっくり味わって大きく気持ちが変わっていくところ
15の「だれもぼくに手紙なんか」につながる。がまくんはこれまで孤独だった。
手紙を聞いて孤独じゃない、1人じゃないんだと孤独心から解放される。
親愛、親友、親友という3つの親を使った言葉で、きみはぼくの親友、ぼくはきみの親友という関係を親友という言葉で
伝えている。それに対して「ああ」。この「ああ」の中に感動で高まっていく心の動きがある。
それが親友の親に現れている。
67にたくさんの感情が含まれている。後ろ向きから前向きに変わった地点。
62から67までつながっている。62で「きみが」となって悲しみから期待に変わっていき、
66で手紙を読み始めたとき、親友だったんだねと気づき、悲しみから感動に変わった瞬間。
かえるの心情をしっかり受け止めて、がまがえるが友情を誓う瞬間。Yesと返事をして4日間待つことへつながっていく。
手紙の「きみがぼくの親友」という内容に対して気持ちが大きく変わって言葉にならない言葉が「ああ」に含まれている。
66で手紙の内容を受け取ったので、67で幸せになった。
13の「ああ」と67の「ああ」を比べると、13の落胆から変わっていく。
ずっと読んでいくと、誰かから告白される時の前で、66ではっきりわかって、67が腑に落ちた瞬間。
「ああ」にこの物語のすべてがあるような気がする。
67だけしっかりした文章になっていない。言葉にならない。この2文字に凝縮されている。
ネガティブながまくんがポジティブに変わった瞬間
62まではマイナスで、Vの字の頂点、ここから上がり、67で気持ちが確定するので、変わった瞬間は「きみが」。
62の「きみが」は、問いかけから安堵の気持ちそしてありがとうの気持ちに切り替わった瞬間。
ずっと手紙が来ないと思って絶望というか悩んでいるところに、希望の光がパアッと指した瞬間。
手紙の内容でなく、手紙が来るということを知ったときが一番大きく変わったとき。
一番大きく変わったということは、一番がまくんの置かれている状況が変わったところ。だから、手紙が「来ない」から「来る」に変わったところが一番大きな変化。
潜在的にがまくんは、かえるくんと「友だちでいたい」というのがあった。そのためにずっと話してきた。かえるくんが手紙を出したと言ってくれたので、「きみが」にうれしさが集約されている。
それまでは落ち込んでいたけど、まさかこんなことが起こるなんてという気持ちで。
どの意見も一理ありますね。意見を聞いて自分の考えが変わった人や迷っている人が いると思います。このぐらつきが学びなんですね。
ここではどれと決定はせずに次の問いに移ります。
この話の主人公は誰ですか? 名前を書いてそう考えた理由も書いてください。
文章を根拠に説明できるといいですね。
かえるくん-11人
がまくん-36人
かたつむりくん-2人
では、グループで話し合ってください。
はじめと意見の変わった人、立ってください。
どうして変えたのか理由言ってください。
がまくん
心情が大きく変わったのが主人公だから。
だれかに愛をいただいて変われたから。
自分も信じて人も信じられるというテーマならがまくん。
動きがあるのはかえるくんだけど、物語は登場人物の心情を読むものだから心情が大きく変わったがまくん。
動きがある。
人を変えていく人だから。
人を助けたり、誰かに寄り添ったりできるから。
かたつむりくん
教科書と原文を比較すると、原文はかたつむりとなっているのでかたつむりくん。
では、双方の意見が出そろったと思いますので、この作品の主題を考えてみたいと思います。
主題とはこの作品が一番伝えたいメッセージ。または、この作品から自分が読み取った価値です。
例えば、「ももたろう」の主題は「正義のために力を合わせれば大きな力を生む」
「正義のために団結し悪に立ち向かうことの大切さ」などとすることができます。
主人公をどちらと考えるかで、主題が変わってきます。
では、まず自分が主人公だと思う方を念頭に置いて主題を書いてみてください。
「がまくん」「かえるくん」という言葉は入れない方がいいですね。
では、20字前後にまとめてください。
書けたら、今度は自分の意見と違う主人公を念頭に置いて主題を書いてみてください。
何人かの人に発表してもらいます。自分が主人公だと思う方の主題を発表してください。
【がまくんを主人公としたとき】
他者とのかかわりによって本当に大切なものとは何か
幸せは遠くに求めるものではなく、近くにあるもの
本当に困ったときに助けてくれる友のありがたさ
【かえるくんを主人公にしたとき】
自分を通じて周囲を豊かにすることによって生まれるよろこびとは何か
身近な人を喜ばせることに幸せがある
生きる勇気を与える友情のすばらしさ
幸せとは人のためにほどこすこと、利他
親愛なる行動はする側もされる側も気持ちよい
気づかないところにある真の友情
【かたつむりくんを主人公にしたとき】
人との約束を守ることが人を幸せにする
どれもすばらしいですね。
今日のまとめです。主人公はどちらでもいいんですね。
どんな主題をこの話から読みとるかによって主人公は変わってきます。
どんな主題を読みとるかは、人によって違います。
その人の年齢、過ごしてきた人生、今おかれている状況などによって同じ作品を読んでも、感じること、読みとる価値は違います。かたつむりくんを主人公だと考えても主題は生まれてきます。
みんなが考えることのできたいい授業でした。
参加者の感想を載せます。
- 1つの物語からこれだけいろんな意見が出るのがおもしろかった。人の意見を聞くことってすごく大切だなあと思いました。
- 文学は一人で読むのもいいが、人とシェアをするといろんな価値に気づく。文学は作者の気持ち、いろいろな登場人物の立場に立つと見方が変わる。久しぶりに自分の視点、視座をかえることの大切さに気づいた。
- 国語の授業案を作成するときに、やはり物語の主題を子どもたちの心に伝えたいと思いますが、授業者が一つに決めなくてはならないと思っていました。今日の授業を受けてみなさんと話し合いながら、その人によっていろいろな読み取り方が有り、感じ方もそれぞれ違い、たくさんの「違い」がとてもおもしろかったです。
- みなさんの意見を伺っていると感受性豊かな方々が本当に多いことを感じました。自分だけでは思いつかない深い感情、奥に秘められたテーマが人と話し合ったり、聞いたりすることで広がります。また、それを受け入れたいと思う気持ちがあってこそ気持ちに響くものだと思います。
- とても楽しくあっという間の時間でした。妻が活字が苦手で、理由を聞いてみると「本読んだら頭良くならない」と言ってきました。「頭を良くするとかではなくて、おもしろいから読むんだよ」と話してましたが、今日の授業を見て、聞いて、考えて、結果「何を思うか、感じるかは自由だ!」って知ってもらえたら良かったなと思いました。今日帰って話します。