12月10日(金)に令和3年度の第7回のおもしろ学校を行いました。
講師は名古屋芸術大学の土井謙次先生です。社会でテーマは「地図やマトリックスから考える世界の今-立ち位置を変えると見え方も変わる-」でした。

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image2地政学を考える6つの基礎  出典『サクッとわかる ビジネス教養 地政学』奥山真司(新星出版社)


まず初めに、地政学についての説明がありました。

●地政学とは
国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考える学問。
●地政学を考える6つの基礎
1)ランドパワーとシーパワー
・ ランドパワー
ユーラシア大陸内部の国々、陸上戦力があり道路や鉄道による陸上輸送能力に優れる。ロシア、中国、ドイツ、フランス等。異民族と陸続き、周囲を圧倒する力が必要、独裁国家(共産主義)が生まれやすい。
・ シーパワー
国境の多くが海洋に面する国々、海洋に出る船はもちろん、造船所や海洋施設などを持つ。アメリカ、イギリス、日本等。貿易が重要、資本主義が発展しやすい。
2)バランス・オブ・パワー
1位のA国は、2位のB国を敵視、3位のC国とは協力。
3)チョーク・ポイント
チョークポイントをおさえるだけで、ルートを支配でき、同時に周辺国にまで大きな影響を持つことができる。スエズ運河、ホルムズ海峡、パナマ運河等
4)ハートランド
ハートランドは、ユーラシア大陸の中心エリア。長い間、北部は氷に覆われる北極海であり、海洋にはアクセスができなかった。(現在では一部溶解しており、部分的に通行が可能)
リムランド…古くから文明や都市が発達してきたハートランドの周縁(リム)のエリア。ヨーロッパや中東、中央アジア、東南アジア、東アジアなどが含まれるが、アメリカやイギリス、日本は含まれない。歴史的に、国際的な大規模紛争の多くはこのエリアで勃発しており、近年でもその傾向は変わらない。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争等。
5)拠点
まず拠点をつくって、そこを足場に周囲に広げていく。
6)敵の敵は味方
国際的によくみられる関係。


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時間に限りがあるので、A~Gの中で、希望の多かったものから授業を進めると説明があり、挙手で参加者の希望をとりました。
A)アフガンでは何があった?
B)EU:なぜ英国は離脱した?
C)中東の立ち位置:なぜいつももめている?
D)米国はどうやって覇権国に?今後はどこへ?
E)ロシアは地球温暖化で変わる?
F)中国はなぜ海洋進出・チベット死守?
G)立ち位置から見る日本の戦後政治


image4希望の多かった、「F)中国はなぜ海洋進出・チベット死守?」から始めることになりました。最初の質問は、「中国はなぜ海洋進出するの?」です。周りの人との話し合いの後、「資源があるから」等の意見が出されました。
「日本の排他的経済水域は、世界で6位。それに対して中国は33位。中国側から見た地図からも、南沙・西沙諸島、台湾等の大切さが分かります。中国が手放すはずがありません。」マトリックスの図を見ながら「毛沢東は、ランドパワー。鄧小平、江沢民、胡錦濤は、シーパワー。習近平は、ランドパワーとシーパワーの両方を得ようとしている。」
先生からの説明を聞いて、参加者は大きく頷いていました。


image5なぜチベット?  出典 Youtube「中国がチベットを絶対に手放せない理由」https://www.youtube.com/watch?v=u65GiSZWekw


中国に関する次の質問は、「中国がチベットを手放さないのはなぜか?」です。隣同士で意見を出し合った後、先生の説明がありました。
「チベットを源流とするたくさんの川があり、中国は水力発電所を建設して発電を行っています。例えば、流域に6億人が生活するメコン川には、中国のダムが9基あり、今後建設予定のダムが21基あります。メコン川流域水量国際会議が開催されていますが、中国は1995年以降出席しておらず、合意を拒否しています。大量に電力を必要とする中国がチベットを手放すはずがありません。」
中国と日本との関係において、驚くべき事実の説明がありました。
「北海道の過疎地や水源地などが中国人によって次々と買収され、中国人がもっている北海道の土地面積は、静岡を超えるまでになってます。中国からたくさんの人が移住し、ロシアがクリミアで行ったように、住民投票を行って中国に併合ということになってしまうかもしれません。また、琉球を独立させようという運動もあります。その後に併合を狙っているのかもしれません。」
中国について学習した後、感想を発表しました。
「ぼやぼやしていると領土を取られてしまうかもしれません。中国人と比べて日本人の方が世界の中では評判がいいはずなので、多くの国と仲良くする必要があると思います。」
先生からも「仲間をつくることが大切です。アメリカの呼びかけで109の国と地域が参加して開催された「民主主義サミット」も仲間づくりですね。」と話がありました。


image6二番目に学習するのは、「C)中東の立ち位置:なぜいつももめている?」です。中東は、ずいぶん変わってきていて、注目されている地域です。

まず、地図でイスラエルの位置を確認した後、先生の説明がありました。
「ユダヤ人はエジプトの奴隷のような存在でした。立ち上がって脱出する時に海が割れる奇跡が起こりました。モーゼがシナイ山で神より「十戒」を授かっています。カナンまで行って落ち着きました。そこが現在のイスラエルです。」
「380年、キリスト教がローマ帝国の国教に、392年、キリスト教以外を禁止してユダヤ人(ユダヤ教徒)への迫害が始まりました。」
「第一次世界大戦でイギリスが二枚舌外交を行いました。フサイン・マクマホン協定でアラブ人の独立を支持、バルフォア宣言でユダヤ人国家を約束しました。大戦後、対立が決定的となりました。」
「イスラム国は、サイクス・ピコ協定の打破を目指しています。」
「中東情勢が変容しています。敵の敵は味方理論が当てはまる関係により、イスラエルに味方する国が増えてきています。」


image7アラブの国と地域  出典 毎日新聞「イスラエル国交署名 UAE・バーレーンと」 https://mainichi.jp/articles/20200917/ddm/007/030/133000c


「中東情勢はどうなると思いますか?イスラエルにサウジアラビアがついたら、力関係が完全にイスラエル側になり、いざこざが減るかもしれません。中東情勢が、A~Gの中で一番明るいかなと感じています。」


image8三番目に学習するのは、「B)EU:なぜ英国は離脱した?」です。なぜ?と思っている参加者の疑問を解くため、地図やマトリックスを使った先生の説明がありました。
「大英帝国は、世界の面積も人口も1/4を支配していました。小国のイギリスが19世紀に世界の覇権を握れたのは「オフショア・バランシング」のおかげです。大陸でドイツの勢力が拡大すると、ドイツの周辺国を支援しながら攻撃し、国力を低下させていました。「オフショア・バランシング」は、イギリスが島国だからできたのです。このように大きな国際紛争は、ランドパワー対シーパワーの構図になっています。」
「EUの加盟国は27か国、クロアチア、マケドニア、トルコも加盟したいと言っています。更に、ウクライナ、ジョージアも動きを見せているので、ロシアが国境沿いに戦車を並べているのです。」


image9TPP参加国をめぐる世界の現状  NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210602/k10013063691000.html


「チャーチル、サッチャー、キャメロン、メイは、グローバリズム、現在のジョンソンは、ナショナリズム、自国第一主義です。グローバリズムの典型がEU、それに対抗するのがイギリスです。歴史からみても、イギリスはEUに入りたくなかったんです。大英帝国の市場を奪われたので、EUの市場が必要だっただけなんです。今では、イギリスは、TPPに接近してきています。欧州の一員から、太平洋地域の一員になろうとしています。」

image10四番目に学習するのは、「 D)米国はどうやって覇権国に?今後はどこへ?」です。
まず初めは「米国はどうやって覇権国になったのか?」です。
「イギリスのピューリタン(プロテスタント)が、メイフラワー号に乗ってアメリカに入植します。蓄財は罪のカトリックに対して、プロテスタントは勤勉が神の意志でした。その後西へ領土を拡大し、アラスカもロシアより購入しました。カナダ、グリーンランド、アイスランドも購入しようとしました。トランプ大統領も、グリーンランドの購入を検討しましたが、デンマークのフレデリクセン首相に「ばかげている」と言われてしまいました。1898年、スペインと戦争をし、カリブ海の島やフィリピン、グアムを獲得。ハワイを併合。パナマ運河を開通させました。モンロー主義は、他国に干渉しないので、他国も干渉しないでというものです。ナポレオン戦争でヨーロッパが大変な時期に、米国は領土を広げていき、シーパワーを獲得しました。その後の産業革命と海外市場の開拓のため、貿易船を守るための拠点をつくっていきました。」
「この頃の衝撃的な事実が、日本はハワイを手に入れていたかもしれないということです。1881年、カラカウア国王が来日し、王女の縁談と日本とハワイ王国の連邦化を提案しました。米国移民がハワイ王国の政治にまで口を出し、米国に乗っ取られそうになっていたからです。日本は、米国に対抗できないと判断し、提案を拒否しました。実現していたら、パスポートなしで行けたかもしれません。」


image11米軍駐留人数
出典 『世界史と時事ニュースもわかる 新・地政学』祝田 秀全(朝日新聞出版)


「米国は、ユーラシア大陸を挟んでいるといえます。地政学上、ユーラシア大陸をコントロールできる位置にあります。軍事拠点もしっかり押さえています。」
「現在、米国は「世界の警察をやめよう」と言っています。多くの若者の命を奪った戦争をもうこれ以上したくないんだと思います。これからは、中国に集中したいと思われますが、ウクライナがNATOに入ろうとしたため、ロシアが国境に戦車を並べました。情勢が変わってきていて、米国がどのような対応をするのか予測がつきません。」


image12「G)立ち位置から見る日本の戦後政治」について、マトリックスを使った説明の後に、本日のまとめが行われました。
時間がなかったので、詳しい説明が聞けませんでした。また、ゆっくり日本の戦後の政治史について土井先生より講義を受けたいと参加者から希望が出されました。


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本日のまとめが行われました。
「本日の授業の中で一番伝えたかったのは、世の中の出来事はつながっているということです。地図をいろいろな角度より見たり、マトリックスを書いて位置づけたりして世の中をみてほしいと思います。新聞を見るのが楽しくなるはずです。」
「世の中のことは自分事です。ニュースからまず自分の考えをもって、その意思意見から自分の行動を取捨選択していきましょうというのが今日の私のまとめです。世の中のできごとにはいろいろなことがあります。自分のこととして受けとめると、本当につながっていておもしろいです。それを自分の考えを持ちながら、自分の生活に生かすことができたらと思ってお話ししました。」

これから注目すべき地政学リスク

image16PwC「2021年最新の地政学リスク──コロナ禍を経た影響と今取り組むべき対応策」 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202107/33-07.html




感想を紹介します

○今回も膨大な資料と圧倒的な取材でとても興味深く話を聞くことができました。地政学という視点、マトリックスというツールを使うと、これまで見えなかったことが見えてきてきました。どれもこれも興味深いテーマで、じっくり聞いてみたい内容でした。機会があれば「日本の政治史」について聞いてみたいです。

○「世の中のことは自分事」自分なりの解釈で物事を見ていくきっかけを作っていただき、ありがとうございました。アメリカと中国の関係しか興味をもっていませんでしたが、今日、変わりました。曇りなき眼で現在のニュースを見ていこうと思います。

○今回の内容は、一回では収らないものにもかかわらず、ポイントをきちんと衝かれた解説ですごく分かりやすかったです。詳細をYouTubeで配信されると面白いと思います。バランス・オブ・パワーについて、マトリックスのフレームを使いながら世界情勢について自分なりに考えていこうと思います。

○先生のとてもエネルギッシュな語り口調、鋭い切り口にとても引き込まれました。最近、SNSに触れる時間が増えてしまい、情報は自分の関心事だけを取得する状態に。今日を期に、もっと世の中のことへ目を向けていかねばと思いました。

○歴史は苦手でしたが、本日は楽しく学ぶことができました。学生時代に先生に教えてもらっていたら、きっと歴史が好きになっていたと思います。世界情勢の歴史を知ることで、今の世界のニュースを見るのが楽しくなると思いました。本日をきっかけに、楽しみながら学んで、歴史の苦手を克服したいと思いました。

○これまでを地政学的な観点で振り返るだけでなく、近い未来でどういった問題が起こりうるのか、その可能性を伺うことができて大変興味深かったです。「歴史は過去と未来の一連の流れ」とは言いますが、起きうる出来事には必ず背景があり、その行動に移した理由を推し量ることで、自分事としてとらえることのおもしろさを知ることができました。