6月10日(金)に令和4年度の第2回のおもしろ学校を行いました。
講師は岩倉北小学校の高橋宏滋先生です。
国語でテーマは「手紙」でした。

20220610_image1 先生の最初の質問です。「最近手紙を書きましたか。最近書いた手紙について周りの人と話し合ってみましょう?」

「お礼状を書いた。」
「仕事上では手紙を書いた。」

「公的な文書は書きますが、私的な文書は、メールやラインになって、ネットの世界にいってしまっているようです。今日は、手で書く方の手紙です。手紙の情緒だったり、意味だったり、送り合うことによって生まれる関係について考えてみたいと思います。」

「ネタは、昭和歌謡です。手紙をテーマにした昭和の名曲では、何が思いつきますか?」

「アンジャラアキの『手紙』」
「由紀さおりの『手紙』」
年齢の差を感じます。

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本日扱う昭和の名曲が紹介されました。太田裕美が歌う「木綿のハンカチーフ」です。

Microsoft Word - おもしろ学校高橋先生資料「木綿プリントが配られて、「□の①~④には。どんな言葉が入りますか?」と質問が出されました。
太田裕美が歌う「木綿のハンカチーフ」を聞いて答え合わせをしました。
「①贈りもの」「②送る」「③あなた」「④贈りもの」

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「木綿のハンカチーフ」の歌詞の設定について考えました。
「登場人物は?」
「ぼく」「私」

「何歳くらいですか?」

「高校を出た18歳か19歳。」
「大学を出た22歳。」

「初めはどこに住んでいましたか?」
「田舎」
「九州あたり」
「地方」
「東京より西」

「この二人は東京に住んだことはありますか?」
「女性は住んだことはありますか?」
「都会に住んだことがなくてイメージで語っている。」
「田舎者というコンプレックスをもっている。」
「女性は住んだことがあって都会のことを知っているので、染まらないでと言っている。」「木枯らしのビル街のことを知っているので、都会に住んだことがある。」
「女性はどちらか分かりませんが、男性はありませんね。」

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「この男性をどう思いますか?近くの人と話し合ってください。」
「東京に関心があって自然かな、行きたいという思いをもった普通の子。」
「自己中心的。」
「世間知らずの田舎者。」
「正直な人。好きな女性ができている。」
「どこにでもいる若造。」
「相手の気持ちを考えることができない人。」
「環境が変わると考え方も変化する。だから歌になっている。」
「純朴。大人になった気になっている。本当の大人になったときに悔やむ。大人になりきれない青年。」

20220610_image5「男性は、どこで心が変わっていますか?」
「スーツを着た写真を送っているから3番かな。」
「1番、2番では彼女のことを思って贈り物を考えているけど、3番では考えていない。」
「3番では、まだ彼女のことを思って手紙を書いているので、4番だと思う。」
「2番です。指輪を贈るのは、罪悪感からきているので。」
「心は変わらず好きという気持ちをずっともっていたけど、彼女がなびかないので別れることになってしまった。」

20220610_image6「女性の心は変わっていますか?変わっていると思う人は○を、変わっていないと思う人は×を書いてください。」

会場では、変わっていると思う人が4名、変わっていないと思う人が10名でした。
「× 変わってないから贈り物をねだっている。」
「× 彼のことをずっと思っていて、彼のためにハンカチーフをねだっている。」
「○ 自分のところへは帰ってこない。ふられたと思っている。」
「○ 3番の『ねころぶあなたが好きだった』では、「だった」と好きが過去形になっている。」

20220610_image7 「どちらが先に心が変わりましたか?男性ですか?女性ですか?」
<男性>
「気持ちが先に離れたのは男性。それを戻そう戻そうとしているのが女性。」
「3番の草と木枯らしが対比になっています。ふるさとの自然の中にいる彼が好きなのに、男性の方が先に変わってしまった。」
<女性>
「1番の段階で女性は20%気づいている。どうせ都会に染まるだろうと思っている。」
「男性は4番まで女性のことを思っている。女性は徐々に冷めていっている。」

20220610_image8「女性がハンカチをねだるところで終わっていますが、男性は女性にハンカチを贈るでしょうか?贈るという人はパーを、贈らないという人はグーを出してください。」
<贈る>
「男性は単純でまっすぐなので、言われたとおり贈る。」
「罪悪感をもっているので、別れの印として渡す。」
「単純なので、ちょうだいと言われたら贈る。」
「女性は皮肉で言っていても、気づかずに贈る。」
<贈らない>
「毎日が楽しすぎて、そこまでの気持ちがない。」
「別の彼女がいるので贈らない。」
「男性は何で今更ハンカチなのと思った。」
「ハンカチは贈らない。あえてほしいというものは贈らない。」

「私だったら贈りません。女性は贈ってほしいんでしょうか?女性の気持ちを考えると贈ってほしくないと思うので、贈りません。」

20220610_image9「『贈与論』を知っていますか?社会学者で文化人類学者のマルセル・モースが、1920年代に作り出した考えです。『贈与論』というのは、この世の中のいろいろなしきたりは、贈与関係で作り上げられているという考えです。例えば、贈り物を贈らなければいけないという義務があり、贈り物をもらったら、それを受け取らなければならない義務がある。贈り物をもらったらお返しをしなければいけない義務があるというようにいろいろな人間関係を読み解きました。例えば、年賀状をもらったら返さないといけない。お歳暮をもらったら返さないといけない…。市場経済は物々交換からスタートしたと思います。等しい価値の物どうしを交換するという市場経済が生まれ、それが発展したものが資本主義経済です。モースは、贈り物からスタートしたと言っています。誰かが誰かのために贈り物をする。それに対して受け取った人は、返済しなければいけない義務を負います。これを反対給付義務と言います。返さないでいると借金を背負うことになります。今の世の中のルールとして機能しています。」

20220610_image10「手紙を受け取ったら返信をしています。受け取った以上は返さないといけません。こういった義務の関係が成り立っています。」

20220610_image11「贈り物をもう少し本質的なところで見ていきます。男性が『贈りたい』というメッセージを送ると、女性は受け取り拒否をします。それが3回続くと、許してくださいと言います。それに対して女性は贈り物をくださいと要求します。でも、この贈り物をくださいという要求に対して私だったら返しません。贈ることができない物を要求していると思います。決して男性が贈らないと思うものを要求しています。もし、君に合うものを贈りますと言われて贈られたものを受けとってしまったら、女性はそれに対して返さなければならないという義務が発生します。男性の価値観を受け入れました。その関係で贈り物を返します。そういう2人の関係が成立してしまいます。だから女性は、ここでは受け取りません。受け取ると返礼の義務が発生してしまうので断ります。最後に男性が、ごめんなさいと謝ります。そこで女性は、絶対に相手が贈れない物を要求します。男性は返せません。つまり男性が最後まで負債を負ったまま、借金を負ったまま生涯を送るという関係を作っています。悪い言葉で言えば、女性の方が男性に呪いをかけています。」

「『木綿のハンカチーフ』の曲の感じは?」
「歌詞の意味が重いので、曲は軽くポップにしていると思います。曲を軽くして、歌詞の意味の重さを隠しています。」

20220610_image12「もし男性が手紙を書くとしたら何と書くでしょう?負債を負った男性は、返さないといけません。もし手紙を返さないとすると、男性はどうすればいいですか?」
「男性が帰ることが、唯一の救済方法です。」

最後にもう一度、これまでの解釈をかみしめながら「木綿のハンカチーフ」を聴きました。

感想を紹介します。

○手紙・言葉、会うこと、(距離)時間の影響力を感じた授業でした。物理的な距離×時間=心の距離という方程式が私の心の中で出来上がりました。問いに答える他の方の意見もとても面白く、人の感性や価値観、心の動きに気付きが多く、とても楽しかったです。

○この歌はよく知っていたし何度かカラオケで歌ったことがあったけれど、歌詞についてこんなに深く考えたことはなかったです。歌詞をここまで掘り下げるってなんておもしろいんだろうと感激しました。まさに目からうろこでした。

○今回は自分が授業者ならという視点をもって授業を受けさせていただきました。授業が終わった後、自分の考えが深く潜っていく実感がありました。それだけ先生の問いが深いのだと思います。今日の授業を通して、発問の深さを深めていけたらいいなと思いました。

○曲に登場する人物の心情をあれこれと想像することが楽しかったです。学生の頃に受けた国語のテストでは、よく「この作品の筆者は何を伝えたいのでしょうか?」という問いがあったのを覚えていますが、人の気持ちや思いに正解も間違いもないということを今回の授業で改めて感じました。

○自分の経験上で、同じような経験がありました。一晩泣いて思い出にしました。それにプレゼントはもらわないようにしていました。

○普段何気なく聞いていた曲も、考察することによって再び楽しめるんだということを知りました。講義のやり方が勉強になりました。質問をして皆さんに考えさせて興味をもたせる、否定的な表現もなくて、受けて気持ちの良い講義でした。

○よく聞いたことがある「木綿のハンカチーフ」の歌詞の意味をこのようにじっくり考えたことはありませんでした。言葉の裏に深い思い、意味があるんだと感じました。二人のやり取りを贈与論という視点でみた時、男性のほうが負債を負うというところが意外でした。それを消すためにできる唯一の方法は、「会いに帰ること」。彼女の本当に欲しいものは、彼自身に帰ってきてもらいたいということがよく分かりました。